忍者ブログ

東陽町ブログ

江東区での2020年オリンピックも決定し、豊洲と住吉を結ぶ地下鉄8号線の完成も間近!?そんな目覚ましい発展を遂げそうな東陽町のこと、いろいろ教えてください(^o^)

白眉は初代の終焉の地である南砂町の章...

川端康成と伊藤初代 初恋の真実を追って(求龍堂・2808円)

ノーベル文学賞作家、川端康成(1899〜1972年)が激しく恋して婚約したものの、別れを告げられた伊藤初代(06〜51年)。初代は初期作品群のモデルとなり、繰り返し登場する。「悲痛な破婚ゆえに川端は作家になれた。不可解な運命を糧として、書くことで立ち直っていくのです」。本書は川端と初代ゆかりの地を歩いて取材し、手紙や小説の引用を多数交えながら2人の別れの謎と、その後の歩みをたどる長編紀行エッセーだ。
 著者は川端康成記念会理事で展覧会プロデューサー。写真家でもある。現在、絵画や彫刻の「川端コレクション」展を全国巡回させている(6月19日まで・東京ステーションギャラリー)。「『篝火(かがりび)』『非常』といった小説では、初代の手紙を抜粋して使っています。そこで、川端が送った手紙を探し始めたのが執筆のきっかけです」。収録した図版約320点のうち、約100点は自ら撮影した風景やスナップ写真だ。
 初代は働いていた東京のカフェで川端に見初められ、後に岐阜県の寺の養女となった。川端は婚約するが、21年秋に<私にはある非常が有るのです><其(そ)の非常を話すくらいなら死んだ方が>などと別れを通告する手紙を受け取る。
 著者は初代の子息に会えた。すると、母が川端と縁を切った「非常」の驚くべき内容を話してくれた。「ただ、伝聞であって、初代さんがうそをついた可能性もある。真実を探す旅を書き留めたのがこの本です」。川端も初代も、親の情愛に恵まれず孤児のような育ちだ。岐阜や島根、福島。取材相手の時に重い口に耳を澄ませつつ推理する。著者自身の深い喪失体験も織り交ぜ、思索を巡らせる。
 白眉(はくび)は、初代の終焉(しゅうえん)の地である東京・南砂町の章だろうか。同行した子息は、母と暮らした場所に立つ。近所の人々は60年以上前の一家のことを覚えていた。<人情に篤(あつ)い下町だ、いつまでも話が弾んだ>。苦労を重ねた、華のあるたくましい無名の女性が、図らずも川端を大作家にし、そして今も小説の中で生き続けている。その縁の妙にうたれるではないか。「本書が川端文学を読み直すきっかけになればうれしいです」

拍手[0回]

PR